エデュケーション

歯科衛生士から伝えよう!「口から食べれることの大切さ」

私たちは毎日食事をします。時々、断食する方もいるかもしれませんが。何かしらの身体的な機能障害がなければ殆どの方が経口摂取により食事を摂っています。 そして、私たちが口腔ケアをする際には、清潔なお口・健康なお口で、いつまでも美味しく食事を楽しんで欲しいと願っているはずです。 口腔は消化管の最上流です。栄養の入り口であり、消化がスタートする場所でもあります。 普段当たり前に無意識に行なっている「経口摂取」は、身体にどんな影響があるのかを確認してみたいと思います。

口から食べるということ

普段、何気なく行っている「食べる」という行動には、とても多くの運動器・感覚器が関係しています。「食べる = 咀嚼・嚥下する」という行動に、脳は多くの刺激を受けています。

例えば、ステーキを食べてみましょう。
経口摂取の重要性1

・美味しそうなステーキを「視覚」で認識

・フォークとナイフを使いカットする「触覚」で性状を確認

・ステーキが口腔近くに運ばれた時には「嗅覚」が働く

・口の中にステーキが入り、口唇や歯と接触「温度感覚」の認識

口腔に入ってからも、口腔粘膜や、咽頭部などでも「温度感覚・触覚・圧覚・痛覚」などの感覚器の反応があり、ステーキを味わう「味覚」は舌や軟口蓋で認識していきます。脳は、この多くの感覚をまとめて認識し過去に味わった経験などと照らし合わせて、美味しい・美味しくないなどの「感情」も発生させます。

そして、ステーキを咀嚼して嚥下するのには顎や舌の運動器も使います。

咬筋・側頭筋・外側翼突筋・内側翼突筋・顎舌骨筋・オトガイ舌骨筋・顎二腹筋・舌骨舌筋などを使い、食塊を小さくしながら咽頭に運び嚥下します。またその運動は、三叉神経、顔面神経、舌下神経に支配されています。

このように、咀嚼・嚥下するということは、感覚器、運動器、神経回路などが複雑に組み合わされた行動であることがわかります。

また、咀嚼中は、唾液、消化液、ホルモンの分泌を促すので、消化や食欲調整、脳内快感物質の分泌により多幸感を喚起したりと口腔以外にも影響があります。「食べる」行動によって、脳は多くの刺激を受けて、さらにその情報を統合するために高度な脳機能が駆使しているのです。

口から食べられないということ

では、口から食事を食べられないことには、どんな影響があるでしょうか。前述した咀嚼・嚥下時に脳を刺激していた多くの過程が省略されるということになります。多くの情報を統括するはずの脳機能が使われないということなのです。

このことは、脳の活性が下がることでの健康面に関する影響だけでなく、食べたい欲求や心地よい感情などの心理的効果、顎や舌の運動機能も下がることにつながり、消化に関わるホルモンや生体の恒常性も変化させ、生命の維持にも関わることにもつながります。

口から食べることと消化・吸収

口から入った食べ物は、消化して吸収されて身体で栄養として利用されることが大切です。口腔は消化器官の最上流です。よく咀嚼することで、消化は始まっています。唾液中の酵素のアミラーゼにより、炭水化物は糖に分解されていきます。咀嚼回数の増加は,食物の噛み砕き量とα-ア ミラーゼによる糖生成量を比例的に増加させることが報告されています。
(柳沢幸江,若林孝雄.飯の物理的性状がでんぷんの消化・ 吸収速度に及ぼす影響,第 1 報咀嚼によるでんぷん消化 の要因分析.日咀嚼誌 1991; 1: 45‒52. )

咀嚼は、食塊を小さく噛み砕く機械的な消化、消化酵素による化学的消化の直接的な消化作用があります。その他にも、胃や腸でも消化の準備が始まり間接的な消化作用がよく咀嚼することで促進されます。

前述したステーキを食べることを例にすると・・・

ステーキを想像する、香りを楽しむ、咀嚼する、味わうなど迷走神経を刺激することで、胃酸の分泌が増えます。これは胃酸分泌の45%を占める脳相の段階で起きています。胃酸がしっかり分泌されることは、タンパク質を消化する酵素を活性化するためにも大切です。消化酵素ペプシンにより食べたステーキのタンパク質の消化が進むのです。消化の過程がうまく進めば、小腸での栄養素の吸収も助けることになります。

口から腸までは一本につながる消化器官です。口腔の健康を守ることは消化器官を守ること、私たちの仕事は全身の健康につながることを改めて感じませんか?

歯科臨床でのアドバイス事例

よく噛む・楽しく食べる・早食いは避けるなどの食事の習慣は誰もが大切だとわかっていますが、忙しい毎日でつい軽んじてしまうことです。歯磨きは大切とわかっているけど、ついサボる…、ちょっと似ていると思いませんか?

例えば、「よく噛んでくださいね」と伝えることは臨床で多いかもしれません。

そこに、身体の健康につながる咀嚼の作用を、その方の健康状態などに合わせて伝えてみるのはいかがでしょうか。

具体例

胃腸の弱い方に

よく噛むと唾液や胃酸の分泌が促されるので消化酵素や胃の動きもよくなり、消化の負担が軽くなりますよ。

老化を気にされる方に

よく噛むことで脳が活性化されるといわれています。学習効果の低下を遅延させて、脳の老化を抑制する報告もありますよ。

子育て中のお母さんに

よく噛むことは、お口、顔、頭蓋が正常に成長発育することに関係します。また、幼若期の脳の発育も促進させます。幼稚園児の咀嚼能力と知能指数と短期記憶能力との間に正の相関があるという報告もあるんですよ。

ゆっくり噛んで口唇や頬粘膜を噛まないようにとか、左右バランスよく噛むなどのアドバイスの他にお伝えできる情報も噛むことを意識するモチベーションになればと思います。

まとめ

よく噛むことは大切だなぁと改めて感じます。自分は、限られた休憩時間などを言い訳にしてつい早食いになってしまうことが多いので、コラムをまとめながら反省しました。よく噛めることの前提条件には、健康な口腔があります。まずは、私たちの専門分野の口腔の健康を守ること、そしてより健康的な生活を送れるように、いろいろな視点でアドバイスができればと思います。

 

成田瑞映

成田瑞映

投稿者の記事一覧

自費のメンテナンスを担当。
患者さんの経時的な変化を診ていく臨床の場で口腔と身体の関わりを実感し、分子整合栄養医学を学ぶ。口腔ケアとともに栄養についてのアドバイスも行なっている。
口腔の健康だけでなく、患者さんの健康を長期にサポートできることをメンテナンスの目標としている。

オーソモレキュラー.jp認定栄養カウンセラー
メディカル・サプリメント・アドバイザー

関連記事

  1. 4つのコントロール「シュガーコントロール編」
  2. 歯科衛生士が拡大鏡を使う5つのメリット
  3. 感染管理から考えた医院内での観葉植物と生花
  4. PMTCの基本知識 PMTCの基本知識とその手順
  5. 高齢者の口腔の健康維持に必要な3つのこと
  6. 入れ歯にも使える抗菌スプレー
  7. 歯の再生に関するニュース
  8. 歯科衛生士が知っておきたい、信頼つくりのための「ペーシング」

最近の投稿

PAGE TOP