私たちの身体は食べたものでできています。この世に生を受けてから、誰もが食べて成長しているはずです。タンパク質の異化と同化を繰り返しながら、骨も皮膚も筋肉も常につくり変えられながら形を保っています。そしてその変化を、私たち歯科衛生士は臨床でよく目にしているのではないでしょうか?
なぜ「栄養補給」が必要か?
口腔組織も常につくり変えられています。身体よりもターンオーバーの速い組織です。実際に臨床では、歯槽骨、歯肉上皮、毛細血管、舌乳頭、口腔粘膜などに損傷や変性が生じても再生し治癒していくのを体験しているはずです。この治癒機転でも、正常なターンオーバーにおいても、栄養素が必要になっています。
例えば、歯周組織が治癒する時、コラーゲン繊維がつくられます、それには、タンパク質、鉄、ビタミンCの栄養素が必要になっています。
どんな「栄養補給」が良いか?
身体と同様に口腔も多くの栄養素を必要としています。何か一つだけあれば問題ないとは言えませんが、足りていた方が好ましい栄養素をあげてみます。
タンパク質、鉄、ビタミンC、亜鉛、ビタミンB群
ビタミンA、グルタミン、ラクトフェリン
ビタミンD、オメガ3系脂肪酸、ビタミンEなど
口腔内は細胞分裂の活発な組織なので、栄養素も多種必要です。これらの栄養素は、傷の治りや血液循環を良くしたり、唾液の緩衝能や歯牙の発生時期の石灰化、免疫、炎症の反応などにも関係しています。
歯科衛生士の立場で何ができる?
例えば、亜鉛の欠乏による味覚障害、鉄や、ビタミンB12の欠乏を特徴とした舌炎などは、教科書でも栄養欠乏による代表的な症例として記憶にある思います。症状に応じて、亜鉛製剤などの処方をする医院もあると思います。それらが治療薬として選択されているのは、ターンオーバーの早い味蕾や舌の粘膜をつくり変えるのにそれらの栄養素が必要で治療効果があるからです。
歯科衛生士は、薬を処方することはできません。但し、再び症状を繰り返さないように患者さんをサポートすることはできるのではないでしょうか。原因が単に栄養素の摂取不足なのか、それとも吸収不良なのか、需要が増しているのかなどをよく伺うことです。それは、ブラッシングの指導や、間食とカリエス予防の指導などでも原因を見つけるために話を伺うのと同じことかもしれません。
「栄養補給」のメリットは?
前述の口腔内にも欠かせない栄養素は、身体にとっても重要な作用を持つものばかりです。口腔内の症状に役立つだけでなく身体も元気になるので、一石二鳥になることもあります。
歯科衛生士ができる日常臨床での提案
例えば、抜歯をした患者さんが噛めないからとお粥を食べるなら、白粥よりも卵粥にしてもらう、これはタンパク質を摂って傷を治すための栄養補給をしてもらう目的です。他にも、同じタンパク源としてお豆腐やひき肉など柔らかい食材を提案するのでも良いと思います。栄養素に関して学ぶのはとても奥深いと実感していますが、まずは身近に出来るところからアドバイスは始められると思います。
まとめ
食べているものによって身体がつくられていることは、万人に共通する事実です。身体にとり込まれた栄養素によって、私たちの身体をつくる細胞が活性化してさまざまな代謝をしてくれているのも事実です。そして、その食べ物が入る「口腔」をサポートするのが歯科衛生士です。
口腔衛生のためにホームケアの方法をお伝えするように、ご自身でできる栄養補給の情報も日頃のアドバイスに加えられたら、ちょっといいと思いませんか。