スタンダードプリコーション

医院設備と環境からみる効果的な洗浄方法

歯科医院での器具の洗浄方法には色々な方法がありますね。医療器具専用の洗浄機のウォッシャーディスインフェクター(WD)を導入している、WDの設備はないけれど食洗機で対応している、機械ではなく、手で器具を洗う用手洗浄法を行なっているなど様々です。使用済みの医療器具の器材再生で一番大切なのは「洗浄」です。滅菌器の種類や消毒薬の薬効に関わらず、「洗浄」を正しく行うことで確実な器材再生が実現します。今日は効率の良い洗浄方法についてまとめてみます。

洗浄の目的

使用済みの器材には唾液はもちろん、血液や目に見えない分泌液などたくさんの体液が付着しています。その体液はスタンダードプリコーションの考えでは、全て「感染物」として捉えます。体液はタンパク質です。洗浄工程ではいかに「タンパク質」をきれいに落とすことができるかが課題になります。「器材再生は洗浄に始まり、洗浄に終わる」という言葉があるほどです。

タンパク質を落とす

効率よくタンパク質汚れを落とす方法を考えてみましょう

固着させない

タンパク質の汚れを落としやすくする方法はまずは「固着させない」(固めない)ということです。タンパク質が付着した器具が乾燥すると固着が起こります。体液の成分はタンパク質からなり、タンパク質は固まるとなかなか落ちないことも知られています。

例えば日常で衣類に付着した血液や、お皿についたタマゴが固まってしまうとなかなか取れないという経験はありませんか?これらはタンパク質の汚れです。臨床の現場において器具に付着した血液や唾液などのタンパク質の汚れを効率よく落とすためには「汚れを固めない」ことです。以上の理由により使用済みの器具は乾燥しないように工夫しましょう。

タンパク質汚れを固着させないための工夫

水につける

回収した器材は水につけておくことで乾燥を防ぐことができます。水道水だけはタンパクは分解できませんので、そこに「タンパク質分解」を促してくれる洗浄剤を混ぜておくことをお勧めします。

専用のスプレーをかける

血液などの汚染物の乾燥を防ぐ湿潤剤スプレーが販売されています。こちらは使用済み器具を回収したらスプレーを全体に噴霧する方法になります。製品によってはスプレーをして3日間は乾燥を防止してくれるものもあります。

訪問歯科で診療をされている場合は蓋付きの容器を持参し、使用済みの器具を入れてスプレーを噴霧しておくことで、器材を乾燥させないで医院に持ち帰ることができます。

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すぐに洗浄する

器材再生専門のスタッフが院内に居る場合には可能な方法です。使用済みの器具を回収直後に洗浄できる場合は直ちに洗浄することによってタンパクの固着を避けることができると考えます。

専用の洗剤を使用する

次に洗浄は、「器具は何の洗剤を使用し、洗浄を行うか?」です。歯科医院の器具洗いで、一般的な台所用の中性洗剤を使用して洗浄していませんか?台所用の中性洗剤は主に「炭水化物・油汚れ」を落とすことを目的にしている洗剤です。医療器具の汚れは「タンパク質汚れ」ですので、汚れの種類にミスマッチしているのは理解できますね。

汚れに見合った洗剤を使用すると汚れはよく落ちます。医療器具の場合はタンパク質を分解することのできる洗剤を選択しましょう。歯科の器具は色々な素材がありますので、中性のものを選択すると器材には安心です。

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洗浄の方法

洗浄の方法には大きく分けると「機械洗浄」と「用手洗浄」があります。

機械洗浄

機械で洗浄する方法です。人の手を使いませんので人により手技の差はありませんし、器具で手を傷つけることもないのでメリットはたくさんあります。

ウォッシャーディスインフェクター(WD)

医療器具専用の洗浄機です。洗浄はもちろん、機種によっては熱水消毒と乾燥まで行ってくれるものがあります。使用済みの器具を一度にまとめて洗浄機に入れて洗浄することが多いですので例えばある程度まとまった量になるまでの使用済みの器具をいかに乾燥をさせないように工夫することが大切だと思われます。

食器洗浄機

家庭用のいわゆる食洗機です。医療用のWDに比べると洗浄力や熱水消毒は期待できませんが、人手が少ない医院は家庭用でも使用方法を考えると効率よく洗浄ができます。

家庭用の食洗機での欠点は洗剤です。食洗器専用の洗剤は多くが食器対応です。ですのでタンパク汚れを落としたい医療器具には向いていないのです。その場合のお勧めは予備洗浄として「浸漬洗浄」を行っておくことです。あらかじめ使用済みの器具を「タンパク質分解効果のある洗浄剤」で浸漬を行っておきます。その後、食洗機の洗浄を行うことによって食洗器の欠点をカバーできるのではないでしょうか。

ウォッシャーディスインフェクターと食器洗浄機の違いについてはこちらの記事をご覧ください。

「ウォッシャーディスインフェクターと食器洗浄機の違い」

食洗機

 超音波洗浄機

小器具を洗浄したり、器具の細部までキャビテーション効果によって洗浄してくれる超音波洗浄機は歯科医院ではなくてはならないものですね。こちらに使用する溶液もタンパク質分解効果のある洗浄剤を使用します。

超音波洗浄機の効果的な使い方についてはこちらの記事をご覧ください。

「超音波洗浄機の効果的な使い方」

用手洗浄

人の手による洗浄方法です。

使用済みの器具を人の手によってスポンジと洗剤を用いて洗浄を行います。汚染した器具を扱いますので厚手の手袋、ゴーグル、マスク、水はねが起こりますのでビニールエプロンの個人防護具をしっかりと身につけましょう。洗い方が人により個人差が出ますので医院ごとに器具の洗浄のルール(洗浄のポイント)を決めておくと良いです。

水道蛇口の真下で水洗で水跳ねを起こさないようにするために桶に水を張った溜め水に水道水を流し入れながら器具を水洗すると水跳ねを防止できます。

すぐに洗浄できるスタッフがいる場合

洗浄を専門にするスタッフが院内にいる場合はすぐに洗浄工程に入ります。

すぐに洗えない場合

すぐに洗えない場合は上記に述べた方法でタンパク質汚れが固着しないように器材を湿潤させる方法を院内で話し合う必要があります。

まとめ

使用済み器具の再生処理はスタンダートプリコーションの考えにおいて、いかなる感染症にも対応できるように処理をすることが重要です。その処理の基本が器具の洗浄です。この洗浄がしっかりとできていることで次の工程の消毒・滅菌の効果がでます。それだけ、器具洗浄は大切なんですね。

医院によって様々な設備環境があると思いますが、環境に応じて最善の方法を考えてみてください。

一般社団法人DHマネジメント協会
歯科衛生士 第2種滅菌技士 長谷川雅代

 

長谷川雅代

長谷川雅代

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歯科衛生士/DHマネジメント専属インストラクター
「自ら積極的に清潔を促す行動ができる歯科衛生士仲間を増やしたい」の思いで院内の感染管理の周知のために活動中。
年に数回の講座を担当し、訪問セミナーも行う。
日本医療機器学会 第二種滅菌技士
日本アジア口腔保健支援機構 第一種歯科感染管理者の資格を所持。

歯科衛生士として臨床も続け、感染管理を広める活動の傍ら、スラッシュキャリアとしてウェディングブーケデザイナーとしても活動中。

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