感染から自分を守る方法として思い浮かぶ方法は何でしょう?医療現場では自分自身を感染から自分を守るために手指消毒をし、マスクやグローブ、ゴーグルなどの個人防護具で身を守りますね。その他に病気に対する「抗体を持つ方法」もあります。今回はワクチン接種について医療従事者として、歯科衛生士として、知っておきたい基礎知識についてまとめました。ぜひ参考にしてください。
この記事でわかること
ワクチン接種について
ワクチンの接種については様々な意見がありますが、平成19年4月に施行された医療法改正で歯科領域における医療安全として、B型肝炎、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、インフルエンザについて抗体価検査・予防接種が推奨されるようになっています。ワクチンの接種を受けるかについては個人の判断になりますが、まずは医療従事者が感染予防に対するワクチン接種(予防接種)について知っておきましょう。
VPDという言葉の意味
VPDとはVaccine Preventable Diseasesの略で
Vaccine=ワクチン
Preventable=防げる
Diseases=病気
つまりは「ワクチンで防げる病気」という意味です。あまり歯科では耳にしない言葉ですが、日本小児学会、日本ウイルス学会、日本医師会をはじめ、病院、個人の診療所を含む医療施設では「ワクチンで防げる病気の総称」として VPDという言葉が使用されています。
VPDには以下のものがあります。
PVDに罹患しないための予防接種
PVDに罹患しないために乳幼児の頃から「予防接種」をしています。10年ほど前は生後6か月ぐらいからワクチンの接種を行なっていましたが、現在では生後2か月がワクチンデビューと言われて、ワクチンの接種が始まります。
その後、必要に応じてインフルエンザの流行前にワクチンを接種を行ったり、大人でもVPDに罹患しないようにワクチン接種は引き続き必要なものとして予防接種法にあります。
ワクチンギャップのある日本
「ワクチンギャップ」は、住んでいる国や地域によって、予防ワクチンを受けられる人と受けられない人が発生してしまう状況を指す言葉です。
諸外国では無料で受けられるワクチンが、日本で受ける場合は任意の有料接種になってしまうなど、接種の有無が経済状況に左右されることもあります。さらに、WHO(世界保健機関)がごく当たり前に接種が必須であるとすすめるいくつかのワクチンが、日本では定期接種化が遅れている現状があります。日本は先進国ですが、先進国の中でも「流行性耳下腺炎(ムンプス)のワクチンを定期的接種していない数少ない国です。
ワクチンギャップが起こった背景
1990年代から2007年くらいまでは、日本で新規ワクチンの承認が停滞した時期でした。ワクチン接種による有害事象の対応を制度化すればよかったのですが、世論や社会の風潮として、感染症のワクチンによる予防効果よりも、有害事象が中心に取り上げられ、なかなかワクチンの必要性・重要性が認識されていなかった時代です。背景には、麻疹・風疹・ムンプスワクチンに含まれるムンプスワクチンで髄膜炎の副作用が起こり、1992年に国は集団訴訟で敗訴し、1993年にこのワクチンが見合わせになったことなどが影響しています。
定期接種と任意接種
予防接種には、法律に基づいて市区町村が主体となって実施する「定期接種」と、希望者が各自で受ける「任意接種」があります。接種費用は、定期接種は公費ですが(一部で自己負担あり)、任意接種は自己負担となります。定期の予防接種による健康被害が発生した場合には、救済給付を行うための制度があります。任意予防接種によって健康被害が起こったときは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法による救済制度があります。
医療従事者の予防接種について
医療関係者においては「感染症をうつさない、うつされないために、予防接種で防ぐことのできる疾病(VPD)に対して、免疫を持つ必要がある」という考えがあります。そこでB型肝炎、インフルエンザ、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎、水痘のVPDに対するワクチン接種や抗体価確認の必要性について日本環境感染学会が「医療関係者のためのワクチンガイドライン」を発刊したり、日本看護協会も医療従事者の予防接種の必要性を提示しています。また、厚生労働省が提案する「無床診療所施設内指針」の中にも「可能な限り採用すべき感染制御策」として医療従事者の予防接種を推奨しています。主なワクチン接種についてみていきましょう。
B型肝炎ワクチン
B型肝炎ウイルスは血液媒介感染をする病原体としては最も感染力が強く、歯科医院で比較的よくみられる針刺しや使用済み器具の片付け時に鋭利物による切創であったり、手にある皮膚炎などの曝露でも感染が成立する可能性があります。免疫のない人がHBV陽性の血液による針刺しを起こした場合の感染率は約30%といわれています。
ですから患者や患者の体液に触れる可能性のあるすべての医療関係者は、B型肝炎ワクチンを接種して、HBVに対する免疫を持つ必要があると言われています。
麻疹・風疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・水痘ワクチン
これらの感染経路はB型肝炎ウイルスの血液媒介感染と違い、空気感染、飛沫感染、接触感染となるのでワクチンの接種対象も受付を含む歯科医院のメンバー全員になります。
インフルエンザワクチン
予防接種実施規則6条による接種不適当者に該当しない全医療関係者が対象になります。毎年1回の接種が推奨されています。
予防接種実施規則6条による接種不敵当者
明らかな発熱を呈している、重篤な急性疾患にかかっていることが明らか、薬剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがある人など、予防接種を行うことが不適当な状態の人のことをいいます。
医療関係者には毎年の接種が推奨されるインフルエンザワクチン
医療関係者においては自分自身への職業感染防止の観点や患者や歯科医院の他のメンバーへの施設内感染の防止の観点、およびインフルエンザ罹患による欠勤防止の観点からも積極的にワクチン接種を受けることが勧められています。
母子健康手帳の記録
母子健康手帳(母子手帳)には生後から受けた予防接種の記録が必ず記載されています。
麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘ワクチンは定期接種・任意接種でも幼少期に接種していることが多いので確認をすると抗体の有無がわかります。
まとめ
院内の感染管理は患者から患者への交差感染をさせないために器材の再生処理をしっかりと行うこと、手指衛生を徹底することが必須になります。
グローブやマスク、ゴーグルの個人防護具で自分自身を守ることも必要です。もちろん、手指衛生はここでも自分を守るためにも必須です。感染予防策としてワクチンで抗体が獲得できるものについては「可能な限り採用すべき」との考えがあります。感染症に罹患することによって自分自身も辛いですし、同じ職場の仲間にも迷惑がかかります。各団体が予防接種を推奨していますが、VPDについてまずは理解し、ワクチンの有効性と健康被害の知識も合わせ持ちワクチンで自分の身を守る方法については今一度自身で考えてみましょう。
引用元
厚生労働省「予防接種基礎講座」
国立感染症研究所「予防接種における間違いを防ぐために」
日本環境感染学会「医療関係者のためのワクチンガイドライン」
公益社団法人日本看護協会