歯列矯正治療に使用する器具はワイヤーを切断するピンカッター、エンドカンターなどのカッター類、ワイヤを曲げるためのバードビークやヤングプライヤー、または歯面に装着してあるブラケットを除去するためのブラケットリムーバーなど矯正ならではのプライヤー類が数多くありますね。それらのカッター類、プライヤー類の器材処理はどのように行っていますか?
この記事でわかること
医療用器材の再生処理の方法
医療用器材には「スポルディングの分類」と呼ばれる器材処理の分類法があります。医療器具を用途別に滅菌が必要なのか、消毒レベルで良いかを考える目安になります。血管や無菌の組織内に入る器具であれば必ず滅菌レベルが必要ですが、粘膜や損傷のない皮膚に触れる器具であれば消毒レベルでよいというように考えていきます。
しかし、なかなか難しいのが歯科器材には様々な材質があるので、滅菌をしたくても器材の耐熱性の問題であったり、消毒で良くても消毒薬による金属腐食の問題があったりするので一概に器材の処理方法が決められない場合が多くあります。
「スポルディングの分類について」の記事はこちら Click▶︎
矯正用プライヤーの感染対策はどのように考えれば良い?
スポルディングの分類に矯正用のプライヤーやカッターを当てはめるとどちらも粘膜には接触しますが、血管内や組織の無菌領域に入らない器材に分類されます。ですのでセミクティカル器具として考えます。唾液やプラークなどのタンパク質に触れますので十分なタンパク質分解の洗浄を行ない中水準消毒でも良いということになります。
金属のプライヤーに中水準消毒薬は使えるの?
中水準消毒薬といえば次亜塩素酸ナトリウムの選択になります。有機物を洗浄により除去してあれば高水準消毒薬と同じレベルの消毒効果をもたらします。が、ここで問題は次亜塩素酸ナトリウムにおける金属腐食の問題があります。ステンレス製であっても浸漬洗浄を繰り返すことによって少しずつサビの原因になりかねません。
消毒薬が使えないので滅菌の選択?
上記の理由で消毒薬の選択が難しいので、滅菌の選択をすると今度は繰り返す滅菌操作によりカッター類の切れ味が悪くなってきます。矯正ではあらゆる太さのワイヤーをカットしますから切れ味を損なわせるとなれば懸念してしまいます。さらにはプライヤー類は基本セットのように本数を常備されていないクリニック多いので滅菌の選択をしたとしても滅菌工程に時間がかかると診療に影響を及ぼすこともあります。
ウォッシャーディスインフェクターがある場合
消毒薬では金属腐食の問題、滅菌では繰り返す滅菌操作による切れ味低下の問題があります。そこで有効なのはウォッシャーディスインフェクターによる洗浄と消毒が適切だと考えます。ウォッシャーディスインフェクターでは90℃5分で熱水消毒が可能になります。診療所にウォッシャーディスインフェクターが設備されているのであれば使用してください。
ウォッシャーディスインフェクターがない場合
やはり洗浄が大切
院内にウォッシャーディスインフェクターがない場合はタンパク分解酵素の入った洗浄剤でしっかりと有機物を落とすことが大切です。プライヤーはヒンジと呼ばれる開閉の部分が汚れますのでそこを意識してしっかりと洗浄しましょう。
エンドカッターの種類によっては刃先にゴムがついている種類のものもあります。ゴムがついているものに関してはゴムを外して洗浄をします。ゴムは基本的にディスポーザブルです。
アルコール綿での清拭はしない
矯正用プライヤー、カッター類は無菌の組織内には入りませんが唾液やプラークが器材に付着する可能性は十分にあります。洗浄せずそのままアルコール綿で清拭するのはタンパクを凝固させてしまいますので清拭をしてはいけません。
院内で処理を決める
洗浄後の工程は消毒薬で処理をするのか、滅菌を行うようにするのか院内でリスクを考慮しながら処理方法を決めることが大切です。
まとめ
矯正用のプライヤー、カッター類はウォッシャーディスインフェクターがあればそれで熱水消毒をすることがベストです。クリニックにお持ちでしたら有効活用をしてください。ウォッシャーディスインフェクターがないクリニックはまずは洗浄です。使用したプライヤー、カッター類はしっかりと付着したタンパクを除去してその後の処理を行ってください。
一般社団法人DHマネジメント協会
歯科衛生士 第2種滅菌技士 長谷川雅代