みなさんのクリニックでも必ず使用済みの器具を洗浄していますよね。使用済みの器具類はタンパク質分解酵素入りの洗剤で洗浄を行い、外科器具やその他スケ-ラ-、小器具類は超音波洗浄機で洗浄を行います。どこのクリニックでも見られる光景だと思います。洗浄が終わったら次の工程は滅菌、或いは薬液による消毒になります。
さてここで振り返ってみてほしいのが、
その洗浄後の器具は、濡れたままになっていないかどうかです。濡れたまま滅菌バッグに入れている。濡れたまま薬液に浸漬しているとしたら、それは適切な医療器具の再生処理工程でしょうか?滅菌、消毒前の乾燥工程について見直しをしてみましょう。
この記事でわかること
正しい医療器具の再生処理工程
使用後の医療機具の再生処理は洗浄から始まります。器具に付着しているタンパク質の汚れをどれだけ確実に落とすことができるかによってその後の消毒・滅菌を完全なものにしてくれます。今回は③の「乾燥」のステップに着目してみましょう。乾燥を必要とする理由があります。
洗浄後の器具を乾燥させないといけない理由
洗浄後の器具の状態で考えると、次の消毒の行為も、滅菌の行為も器具の周りに「水分が付着する」のでわざわざ乾燥させなくても良いんじゃない?と思いますよね。でも、医療器具の再生処理工程では洗浄後の器具の乾燥は必須になります。
理由① 消毒薬の有効濃度が変わってしまう
せっかく濃度を調整した薬液を作っても洗浄後の濡れたままの器具を投入するとどうなるか?薬液の「濃度」が変わってしまいます。適正な濃度ではなくなってしまうのです。適正な濃度でない消毒薬での消毒は有効ではないため、器具を乾燥させることが大切です。
浸漬によって薬液消毒を行う際には使用する薬液を指定の濃度に希釈して使用します。消毒薬を正確に計量し、使用することが薬液消毒においては必須になります。消毒の3要素は、時間・温度・濃度です。このことを振り返りながら、乾燥することの大切さをもう一度見直してみましょう。
理由② 滅菌ではチャンパー内の温度が不十分になってしまう
洗浄後、濡れたままの器具を長時間放置すると菌の増殖などの危険性があります。また、濡れたままの器具を滅菌機に入れると、蒸気の浸透や温度上昇が不十分になってしまう恐れがあるため、器具を乾燥させることが大切です。
多くの歯科医院で使用されている高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)は飽和蒸気によって器具を滅菌します。飽和蒸気が器具にしっかりと浸透し、温度上昇するように器具を乾燥させましょう。
理由③ サビ・シミ・ヤケを予防する
洗浄後のすすぎをしっかりして水分を残さない=乾燥をしっかりさせることは器具に残っている水分によりサビ・シミ・ヤケを防ぐことができます。
器具を乾燥させる方法
洗浄後の器具を乾燥させる方法を考えてみましょう。
タオルによる乾燥
器具を乾燥させる方法として、文献によっては綿タオルで器具を拭いてはいけないと記述されているものもあります。理由は洗浄後のせっかく付着菌数が減った器具に綿タオルについた雑菌を新たに付着させてしまうとことが理由です。さらに綿タオルでの乾燥は乾燥後に繊維が器具に付着することが懸念されるようです。
そこで代案として「マイクロファイバークロス」の使用とクロスの単回使用(湿ったままで複数回使用しない)ということが考えられます。クロスを使用する際は、乾燥しているクロスを使用することを徹底してみてください。
食器乾燥機による乾燥
器具を乾燥させる方法として、食器乾燥機を用いる方法があります。器材の積載方法で乾燥の具合も変わってくるため、適切な量を考慮することや、庫内が不潔にならないように常に換気を行い、定期的な清掃を心がける必要があります。
ウォッシャーディスインフェクターによる乾燥
ウォッシャーディスインフェクターが設備されているクリニックは乾燥工程後、熱水消毒までしてくれるので安心して次の滅菌工程に入れます。一番安全で確実な方法です。(ウォッシャーディスインフェクターの機種によっては乾燥工程のないものもあります。設備されている機種を確認してください。乾燥工程のないものは別途乾燥は必要です。)
まとめ
器具を洗浄した後、濡れたままの器具の状態ではなく、しっかりと乾燥させてから次の消毒・滅菌工程に移ることで次の工程の効果が発揮されます。各クリニックによって設備・環境は違うと思いますが、最善の方法を選択して器具の再生処理を実践してみてください。
一般社団法人DHマネジメント協会
歯科衛生士 第2種滅菌技士 長谷川雅代