人材育成の悩み事で、まだやってもいないのに「できません」という。逆にまだ何にもやっていないのに、「できます」という。やってみたら全然できていない。。。こんな悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。できないDHとできますDHはどのようにしたらスムーズに人材育成ができるのだろう。臨床のヒントになりましたら幸いです。
この記事でわかること
できませんDHの「できません」2つの意味
「できません」 「わかりません」 すぐにそう言われるとカチンってくることってありませんか? 皆さんは器の広い方だからそんなことではカチンとこないかもしれません。「これお願いね」と言うと 「できません」「ムリです」と返ってくる。そんな経験もあると思います。 これには2つの考え方があります。
①本当にできない
②できるかどうか分からない
です。
おおよその場合、②のできるかどうか分からないことのケースが多いのですが、忙しい毎日の中ではどうしてもすぐに「できません」と言ってしまうのが新人DHの心境でもあります。 「やる前から決めないで💢」 と思ってしまう事もあるかもしれませんね。
「できません」にルールを作る
ある企業に見学に行ったとき、こんな話をされていました。新入社員には、このように伝えてるんだ。本当にできないことはできませんと言ってほしい。そして、できるかもしれないけど自信がないものは「できるか自信がありません」と 答えを分けてほしいと。
なぜかと言うとね、本当にできないことを、1人でやろうとして、失敗をしたら誰に迷惑がかかるかというとお客さんだから。ただ、なんでもできるか自信がないと言われても困ります。 その時のために「見極め」の時間が必要になります。いついつまでにできるかどうかチェックをすると言う可視化をすることでできないことは、できるようになるためのサポートをするからどこまでできていてどこができないのか?どこをサポートすればできるようになるのか?ここをしっかりとヒアリングすることで人材を伸ばすチームになり、結果としてお客さんのためになるから。
ちょっとしたルールがあると、互いにとって良い環境を作れるのかもしれませんね。
「できない」と言える雰囲気作り
もう一つ大切なのは、 本当にできないことは「できない」と言える雰囲気を 作ることです。「えっ?そんなことできないの?」と言う雰囲気を作るとできないことを黙ってしまい、間違ったことをやり続けてしまうケースが出てきます。そうすると誰に迷惑がかかるかというと患者さんですね。 「できない」と言ってくれた事は、できるようになるためのスタートです。
「できるようになる」ための工夫
どこができないのかヒアリングしてできるようになるためには何が必要か分析してみてください。そして、すべての資料を作成すると大変な作業になります。なので、課題図書なども活用して、少しづつでもいいから知識を増やしていけるように支援をしてみてください。その課題図書で学んだことをレポートとして提出してもらい、知識が深まっているのかを確認する。
そして、課題をクリアしたらできていることをしっかりと褒めてあげてください。できないことで自信をなくしていたり、そもそも自己肯定感の低い、自信のないタイプの場合は、しっかり褒めることで、自信をつけてあげることです。
こういった細かなサポートが新人教育には必要なのです。「いいね!勉強すすみましたね!」と笑顔で伝えていますか?
あなたは、患者さんに、細かな優しいサポートができていますよね。それと同じように、 新人DHにも笑顔で支援してみてください。
できますDH
「できます」「知ってます」「全部できます」と言う、自称「できます」歯科衛生士。これは、DHマネジメント協会のデンタルマネジメントコースで議題にも上がった課題です。
自称「できます」歯科衛生士、蓋を開けたら。。。。できてないんですけど~~~ 。のような状態もあるのではないでしょうか?こちらは「できない」という自信のないタイプではなく自信満々の自己肯定感の高いタイプで、新人DHにも、数年経験のあるDHにも みられます。
そもそも、PMTCとは?という定義や概念がそれぞれの医院で違っていたり、メインテナンス、クリーニンング、PMTC、ジェットクリーニングなどの言葉の使い方が違えば、その内容も違います。本人は「できる」と思っていても、医院の基準でできているかというとそうではい。そういうケースは多くみられます。なので、ひとつひとつの言葉の定義を医院内で統一しておくことが、最初の一歩になります。
「PMTC」の言葉の定義とその施術内容は統一されていますか?
できますDHの「できます」2つの理由
自称「できます」歯科衛生士。ちょっと、うちの医院のやり方と違う。できてはいるけどザツだしクオリティが低い。 ユニット消毒の拭き方もザツ。あ~。なんか言いにくいよ~。
院長は、入社した後は ほとんどこちらに任せっきりだし、年齢もDH歴も自分より上だし。言いにくすぎる。しかも、なんか、ちょっと「お手並み拝見的な」上から目線で、見学の時も腕組んで見てるし。
そういうシチュエーション、経験したことはありますか?
こういう場合、40歳前半から後半にかけての歯科衛生士の場合が多く、なんとも扱いにくいコミュニケーションを取って、自分の首を絞めているという現状です。「なんか扱いにくいよね。次から40歳代はやめよう」と、40歳代の求人を減らしています。とっても残念なことですね。(全員がそうではありません)
そもそもは、医院側が面接の時に、コミュニケーションについて言及しなかったことや、来てくれた人はまずは入社してもらうという万年人材不足によることが課題でもありますが、入社してもらったしできれば長く勤務してほしいけど、結局悩むのは、研修を任された歯科衛生士なわけで。
あなたの医院でこの状況が起こった時、さて、どうしますか?
これには2つの要因があって、1つは40歳代の歯科衛生士の焦りからくる、自称「できます」発言(全員がそうではありません)もう一つは、教える側の「質問」が抽象的であることです。
抽象的な質問からでる「できます」
「口腔内写真撮影できますか?」と質問すると、「ふっ。できます。」みたいな。当たり前じゃないの何聞いちゃってるわけ?の雰囲気を出してしまっている。「あ~、そうですか。。。ではお願いします」と、任せたら、以前は、小型デジタルカメラで撮影していて、しかも、5枚の撮影だった。という事実が判明した。
当院は、スタンダードに最高級の一眼レフカメラで12枚の撮影を実施している。そのレベルでの「口腔内写真撮影できますか?」と聞いている。だとしたら、どちらにとってもその質問では、良い結果は生まれませんね。
さて、こういう時、どうしたら問題が起こらないのでしょう。ここにも2つの要素が隠されています。
教える側の改善要素
教える側の質問の仕方を少し変えるだけでできますDHは「できます」を判断して答えるようになります。「口腔内写真撮影できますか?」だけだと、ワナにかけているような質問です。例えば、「Keynoteでプレゼンテーションできますか?」と質問され「できます」と答えて、じゃあ、「TED」のようにプレゼンしてね。と言われてしまうようなもの。
教える側の質問力
この場合は、教える側が丁寧な質問をすることが大切。(カメラと写真を見せながら)「当院では、Canonの一眼レフカメラで規格統一した12枚撮影を実施しているのですが、これまで、同じ条件で撮影されたことはありますか?」CanonとNikonでも操作も違いますし、カメラの癖も違います。そうすると「口腔内写真は撮影してたけど一眼レフは使ってませんでした」と回答が変わるのではないでしょうか?相手の早まった「できます」回答を導いているのが教える側の問題だとしたら?
あなたの質問方法を変えることが良い関係作りの一歩でもあります。
教わる側の改善要素
教わる側の歯科衛生士は、どうしても、再就職となると、全くできないと思われたくない。そういう気持ちが先走ってしまうことって誰にでもあると思います。次、また面接は嫌だなとか、一から教わるのもなんだかなと。それももちろん察しますよね。もし、40歳を過ぎて再就職をしたのなら、「口腔内写真撮影できますか?」の質問に対してしては、「やっていましたが、医院のやり方を確認したいです」と、言えるようになることです。
この医院に馴染むまでは素直に謙虚にいることも大切です。もちろん、マネージャーとして雇われた場合は別ですが、それまでは、自分のやり方よりも長く働いてきたDHのやり方を尊重できる自分であることも大切。
教える側、教わる側、どちらにも要因があります。だからこそ、今この状態が起こっていることに自分が要因だとしたらどのように改善することができるか?自分ができることは何か?と自分に問うことからはじめてみてください。
それでも自称できますDHに苦戦
そうは言ってもね、、、自称「できます』DH 、なかなか強情なんですよ~。みたいな泣き言を言っている方もいらっしゃるかもしれませんね。ある医院で、20歳後半の主任DHが自称「できます」DH40歳に苦戦していました。
こういう時、どうするんですか? と、院長に質問したところ、このように答えてくれました。
「そういう人、ここ最近多いんだよね。なんでもできるというけれどうちの医院の基準ではできてないし、前の医院ではこうだったと、上から目線でみんなが困ってる。」 そういう時はね、まず、主任DHと、できますDHと僕と3人で面談をしています。その面談では、医院の理念を確認して、3か月間の試用期間であり、医院に馴染めてきているか?を確認しています。
そして、この3か月は主任DHにうちの医院のやり方や考え方を学んでほしい。それで、合わないと思うかどうかやり方がおかしいと思うかどうかを判断してほしいんだ。僕らもこのやり方が100%だとは思っていないし、もっと改善していきたいと思っている。
だから、まず、3か月は医院の方針を知る期間だと思って前の医院のことは言わないでほしい。この医院で同じチームとして働きたいと思ってくれたなら、みんなと一緒の方向を向いていけると思ってくれたなら、たくさん意見を聞かせてほしい。
そのようにしているよ。
こういう場合は、院長から理念を伝えて、チームで働くことの意味を考えてもらう機会をきちんととることが大切なんですよね。立ち話ではなく、時間をとって話すこと。そして、院長から話すこと。
もし、院長が話してくれないと嘆いているなら、院長と膝を突き合わせて、ゆっくり話す時間を作ってみてはいかがでしょうか?
「できいてる、できていない」 判断基準を設けず、 評価することはナンセンス
教える側、教わる側、どちらにも要因があるとしたらあなたには何ができますか?やってもいないのに、できないという新人DH、やってもいないのに、できますというベテランDH。気づいたら指導者として、1人で頑張ってて「私、誰のためにやってるんだ? 」と頭がぐるぐるすることもありますね。そういう時、互いにとって共通の指標があると、マネジメントの悩みも軽減すると思うのです。
基準を作る
規格写真のベストな見本。この見本のように写真が撮れるようになったら合格です。という基準。正しい見本があるから、評価ができます。
患者さんにもそうですよね。「あなた歯周病です」と言い放つよりも、「こちらが、健康な歯茎の写真です。こちらが、歯周病の歯茎の状態です。あなたのお口の写真はこちらです。健康な写真と歯周病の写真を見比べてみて、ご自身の状態はどのくらいだと思いますか?」と質問する。基準があるから、自分の状態がわかる。そういう指導をしていると思います。人材育成も患者さんへの説明も同じことなんです。
基準の作り方
では、最後にどうやって基準を設けるのか? 教える側、教わる側にも要因があることは分かったけれど、どうやって基準をもうければいいのか? ひとつひとつ作っていくのはとても大変。確かに心が折れそうになりますね。そういう時、どうしたら自分の基準ではななく、みんで共有できる基準を設けることができるのでしょう。
まずは、書籍を参考にする
世の中には多くの書籍が発売されています。また、歯周病学会では、治療に関するガイドラインもPDFで配布しています。口腔内写真は、さまざまな書籍が発売されていますね。それを基準にすることで指導者として資料を作る時間も軽減しますし、だれの基準であるかも明確です。すべてを一人で作らなければならないと思うとスタートから挫けてしまいそう。そんな時は、先人達がまとめてくれている書籍を参考にして、まずは基準を統一することから始めてみてはいかがでしょうか?そこから、医院のやり方は少し違うから修正しようとか、これを軸に評価基準を作成しようと、次のステップへすすめるようになります。
最初から全てを作成しようと思わずに、60点を目指してみる。そのくらいから始めてみてください。
まとめ
できませんDHとできますDH、教える側にも教わる側にも要因があるとしたら、あなたは何から改善できるでしょうか?一緒に働くメンバーとは長く働ける環境が結果として患者さんとの継続した関係性を築ける歯科医院作りになるのではないでしょうか。
一般社団法人DHマネジメント協会
歯科衛生士 塚本千草